COLUMN · 2026.05.27

船舶賃貸借契約と海運業務に関する契約書作成のポイント

海運業や内航・外航事業に携わる事業者の方にとって、船舶を巡る契約書の整備は事業リスク管理の根幹をなすものです。しかし、船舶賃貸借契約は一般的な不動産賃貸や動産リースとは異なる法的特性を持ち、専門的な知識なしに契約書を作成すると、後日重大なトラブルに発展する可能性があります。当事務所では、大阪・瓦町を拠点に行政書士として海運関連の契約書作成支援を行っており、本コラムではその実務上の要点を整理してご紹介します。

1. 船舶賃貸借契約の基本的な種類と法的位置づけ

船舶に関する賃貸借契約は、大きく裸用船契約(バーボートチャーター)定期用船契約(タイムチャーター)、そして航海用船契約(ボイジチャーター)の三種類に分類されます。それぞれ法的性質や義務の帰属が異なるため、契約書のひな形を流用する際には十分な注意が必要です。

裸用船契約は、船舶のみを引き渡し、船員の配置や運航管理のすべてを借主側が担う形態です。この場合、借主が船舶の占有・管理を持つことになり、商法第704条以下の規定が適用される可能性があります。一方、定期用船契約や航海用船契約は、船員付きで船舶を提供する形態であり、運航責任の所在が裸用船契約とは大きく異なります。契約書に「用船契約」と記載しているだけでは法的性質が曖昧になることがあるため、契約類型を明確に定義することが重要です。

2. 船舶賃貸借契約書に必要な主要記載事項

契約書の効力を確保し、紛争を未然に防ぐためには、以下の事項を明確に定めることが求められます。

  • 船舶の特定:船名・船籍港・総トン数・登録番号など、対象船舶を一義的に特定できる情報
  • 賃料(用船料)と支払条件:金額・支払サイト・遅延損害金の取り扱い
  • 引渡し・返船条件:引渡し場所・条件(バンカー残量・ドック状態等)および返船時の状態に関する取り決め
  • 維持修繕義務の帰属:通常の維持費・定期検査費用・損傷修繕の負担区分
  • 保険加入義務:船体保険・P&I保険の加入義務者および保険金額の下限
  • 転貸・権利譲渡の制限:貸主の承諾なき転貸を禁止する旨の明記
  • 解除条項と原状回復:債務不履行時の解除要件と返船手続き

特に維持修繕義務の帰属については、契約書に曖昧な記載しかない場合、修繕費をめぐる争いに発展することがあります。裸用船契約であれば借主負担とするケースが多いですが、その範囲(定期ドック費用を含むかどうかなど)を具体的に定めておくことが望ましいといえます。

3. 海運業務特有のリスクと契約書上の対応

海運業務においては、一般の陸上取引では生じにくいリスクが存在します。代表的なものとして、気象・海象による運航遅延座礁・衝突等の海難事故荷主との損害賠償問題などが挙げられます。これらのリスクに対して契約書上どのように手当てするかは、事業の継続性に直結する問題です。

たとえば、不可抗力条項(Force Majeure条項)の定め方一つとっても、対象となる事由を「台風・高波等の自然災害」に限定するのか、「政府の規制・港湾封鎖・ストライキ」まで含めるのかによって、実際の事案における解釈が変わってくる可能性があります。また、国際海運が絡む場合には準拠法・裁判管轄の条項も不可欠であり、英国法準拠・ロンドン仲裁を求められるケースも少なくありません。当事務所では国内取引を主な対象としていますが、外航案件については提携する専門家と連携して対応することが可能です。

4. 船舶登録・船舶法との関係で注意すべき点

船舶賃貸借契約を締結する際には、船舶法および船舶安全法との関係も確認しておく必要があります。日本籍船を外国人や外国法人に貸し渡す場合には法的制限が課されることがあり、また一定規模以上の船舶については国土交通大臣への届出が必要になるケースもあります。

内航海運事業を営む場合には、内航海運業法に基づく登録または届出が求められます。この手続きを経ずに事業を開始すると、行政処分の対象となる可能性があるため、契約書作成と並行して許認可の要否を確認することが重要です。当事務所では行政書士として許認可申請の支援も行っており、契約書作成から許認可手続きまで一体的にサポートすることが可能です。

5. 契約書作成における実務上のチェックポイント

実際の契約書作成において、当事務所がとくに確認を促している項目を以下に整理します。

  • 契約類型(裸用船・定期用船・航海用船)が明確に定義されているか
  • 賃料の計算基準(日割・月割・航海単位)が具体的に定められているか
  • 燃料油(バンカー)の負担と引渡し時・返船時の数量調整方法が規定されているか
  • 船舶の性能保証(速力・燃費等)と不達成時のペナルティ条項があるか
  • 船員費用の負担区分が明記されているか(定期用船の場合)
  • 保険の種類・加入先・証券写しの提出義務が定められているか
  • 争いが生じた場合の管轄裁判所または仲裁機関が指定されているか

これらの項目がすべて網羅されていても、表現の曖昧さや他の条項との整合性の問題から解釈上の争いが生じることがあります。契約書は作成して終わりではなく、実際の運用状況に合わせて定期的に見直すことも有益といえます。

6. 専門家への相談が有効なケース

船舶賃貸借契約や海運業務に関する契約書は、業界慣行と法令の双方を踏まえた対応が求められる分野です。とくに以下のような状況では、専門家への相談を検討されることをお勧めします。

  • 初めて船舶の貸し借りを行う場合や、新たな用船先との取引を開始する場合
  • 既存の契約書を更新・改訂するにあたって現行内容の適切性を確認したい場合
  • トラブルが生じる前に契約条件を整理・明確化しておきたい場合
  • 内航海運業の登録・届出と併せて契約書の整備を進めたい場合

当事務所は行政書士・社会保険労務士のダブルライセンスを持ち、契約書作成から許認可申請、さらに従業員に関する労務管理の整備まで幅広く対応できる体制を整えています。海運事業者の方が抱える複合的な課題に対して、できる限り一体的にサポートできるよう努めております。ご不明な点がございましたら、まずはお気軽にご相談ください。

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※本記事は一般的な解説であり、個別の結果を保証するものではありません。具体的な申請可否・採択可能性は事業内容により異なります。

執筆:東亮介(行政書士 第13262050号/社会保険労務士 第27130052号)

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